海外居住者が日本国内の宅地を相続する際の相続税の小規模宅地の特例の適用について事例を基に考えます。
「相談事例」
イギリスに13年ずっと住んでいます。最近日本で暮らしていた母が亡くなり、母が住んでいた日本の家と敷地を相続することになりました。私は、元は日本に住んでいて国籍は日本なのですが、結婚して以来ずっとイギリスで暮らしています。日本へは数年に 1回位しか行きませんし、これからもイギリスに住む予定です。相続税の小規模宅地の特例は受けられますか。
「回答」
相続税の小規模宅地(特定居住用)特例の要件を満たしますと、被相続人(亡くなった方)が居住用としていた宅地等は330㎡まで 8割の評価減が可能となります。その要件の一つに、いわゆる「家なき子」のケースというものがあり、その特例を適用するための要件は次のとおりです。
(1) 被相続人の親族が、被相続人の居住していた宅地等を相続または遺贈で取得したこと。
(2) 宅地等の取得者は、相続税法第 1条の 3第 1項 第 1号、同項第 2号に該当する者、又は同第
4号に該当する者で日本国籍を有する者であること。
(3) 被相続人の配偶者がいないこと。
(4) 相続直前に被相続人の居住家屋に他の相続人が居住していないこと。
(5) 取得者・取得者の配偶者・三親等内の親族・同族法人の所有する、相続税法施行地内にあ
る家屋(被相続人の居住家屋を除く)に、相続開始前 3年以内に取得者が居住していないこ
と。
(6) 相続開始時に取得者が居住している家屋を、相続前に取得者が所有したことがないこと。
(7) 相続開始から相続税申告期限まで引続き、取得した宅地を所有していること。
ずいぶん沢山の要件があります。上記要件の(2)の相続税法第 1条の 3第 1項は、相続税の納税義務者を定める条項で、取得者は同条項の上記記載の各号に該当する相続税の納税義務者でなければならないということになります。この条項は難解ですが重要ですので、以下、少し簡略にして書きます。
1 相続税法第 1条の 3第 1項第 1号
相続税の納税義務者は、財産取得時点で日本に住所を有する、
イ 一時居住者(注1)でない個人。
ロ 被相続人が外国人被相続人(注2)または非居住被相続人(注3)でない時の、一時居
住者である個人。
(注1) 一時居住者
相続開始の時に在留資格を有する者で、相続前 15年以内に日本に住所を有していた
期間が 10年以下の者。
(注2) 外国人被相続人
相続開始の時に在留資格を有し、かつ日本に住所を有していた被相続人。
(注3) 非居住被相続人
相続開始の時に日本に住所を有せず、相続前 10年以内に日本に住所を有したことがあ
る者で、日本国籍を有していなかった者、または相続前10年以内に日本に住所を有しな
かった者。
2 相続税法第 1条の 3第 1項第 2号
相続税の納税義務者は、財産取得時点で日本に住所を有しない、
イ 日本国籍の個人であって、
(1) 相続前10年以内に日本に住所を有していたことがある者。
(2) 相続前10年以内に日本に住所を有していない者で、被相続人が外国人被相続人また
は非居住被相続人でない時。
ロ 日本国籍を有しない個人であって、被相続人が外国人被相続人または非居住被相続人
でない時。
3 相続税法第 1条の 3第 1項第 4号
相続税の納税義務者は、財産取得時点で日本に住所を有しない個人で、日本国内の財産を
取得した者で、第 2号に該当する者を除く。
(この場合は、相続税法第 2条により、取得した日本国内の財産に対してのみ課税されます。)
相続税の納税義務者の条項は、国際的課税方針の変更に対応して頻繁に改正が行われ、その度に内容・条文が複雑化又は変更されておりますので、理解及び追従するのに大変骨が折れると思います。
さて、以上の特例適用要件をご相談のケースで考えてみましょう。
(1) 「被相続人の親族が、被相続人の居住していた宅地等を相続または遺贈で取得したこ
と。」
これは前提ですからいいですね。
(2) 「宅地等の取得者は、相続税法第 1条の 3第 1項 第 1号、同項第 2号に該当する者、又は同
第 4号に該当する者で 日本国籍を有する者であること。」
国際的相続では、これが重要なポイントになります。
あなたは、財産取得時点で日本に住所を有せず、日本国籍で、相続前10年以内に日本に住
所を有していないけれど、被相続人が外国人被相続人または非居住被相続人でない場合の納
税義務者になり、上記の相続税法第 1条の 3第 1項第 2号イ(2)に該当します。従って、OK。
(3) 「被相続人の配偶者がいないこと。」
これはご事情によります。
(4) 「相続直前に被相続人の居住家屋に他の相続人が居住していないこと。」
これもご事情によります。
(5) 「取得者・取得者の配偶者・三親等内の親族・同族法人の所有する、相続税法施行地内に
ある家屋(被相続人の 居住家屋を除く)に、相続開始前 3年以内に取得者が居住していな
いこと。」
相続税法施行地内にある家屋とあり、イギリスの家屋は含まれないことになりますの
で、あなたが 配偶者や親族等の所有する家屋に住んでいても、OKとなります。
(6) 「相続開始時に取得者が居住している家屋は、相続前に所有したことがないこと。」
相続時点でお住まいの家屋がご自分の所有だった時がなければ、OKです。
(7) 「相続開始から相続税申告期限まで引続き、取得した宅地を所有していること。」
取得した土地を相続税の申告期限まで所有していれば、OKです。
以上の検討の結果が全てOKとなれば、特例の適用が可能となります。
現実に案件が生じた折には、下記法令等をご参照なさって、扱いに正確を期して頂きますようお願いいたします。理解にそごが生じる恐れもございます。なお、当方に解決をご依頼の際には、責任をもって検討させて頂きます。
2023.5.17 yxiaolin117@gmail.com 税理士 小林禧継