土地の賃貸借をする上で、相当地代の授受を親子等の親族間で行う場合の税務の扱いについて事例を基に考えます。
「相談事例」
自宅建物全てとその敷地の 1/2を 3年前に夫から相続しました。敷地の 1/2は娘が相続しています。娘は 2年前に結婚し家を出ました。娘の土地持分 1/2については、私が無償で借りていたわけですが、最近娘に地代を払ってやろうと考えています。娘はできるだけ多い方が良いと言っています。相当地代は通常の地代と比べて高いそうですが、私が娘に相当地代を払うのは税務上いかがでしょう。 相当地代で賃貸を始めたとして、何年か経って土地の値段が変わってきた時にはどうなりますか。
「回答」
借地人の経済的地位の高さから、更地価格に占める借地権の割合は大きく、国税庁の発表している路線価図では、借地権割合が 8~9 割の地域もあります。そのような地域では、土地所有権ではなく、借地権付建物の売買契約も多く、借地権取得のための費用は多額なものになります。
敷地の 1/2に借地権を設定するとなると、娘さんに多額の代金を払うことになり、また娘さんは借地権の譲渡所得課税がされることにもなります。借地権の対価を支払わずに借地契約を結び、通常の地代の授受をしますと、娘さんからあなたへ借地権の贈与があったとされて、多額の贈与税があなたに課されることになります。
そこで、「土地を借りているのだから、地代を払ってもおかしくない。借地権についての課税がされないように借地契約ができないか。」と考えることになります。これは、土地所有者が主宰する法人に土地を貸す時によく問題になります。借地権の設定に際し通常権利金を授受する取引上の慣行がある地域で、借地権相当の対価の支払いなく法人が借地をすると、法人は借地権の受贈益に対して課税されます。この課税を避けるために、法人は通常の地代より高い「相当地代」と呼ばれる地代を払う選択をすることができます。
土地の所有権(借地権に対する底地権)に比べ、借地権の割合が大きければ大きいほど、地代は低くなるという原理から、逆に地代を高くすれば借地権の占める割合は低くなり、借地権が全くない場合には地代は最も高くなると考えられます。そこで、借地権相当の対価の授受がなくても「相当地代」の授受をすれば、借地権は 0であるから借地権 についての課税はないということになっています。これを基本として、法人税の扱いでは、相当地代の最低限度の金額が、過去 3年間の相続税評価額の平均値の概ね年 6%程度と定められています。
税務上のこの扱いは、借地関係の原理から生まれているものであるため、相続税・贈与税の場合でも、同様の扱いが通達で定められています。ただ、法人は営利を目的とする法的人格で自然人とは異なる点があり、実際上は個人間で相当地代の授受が行われる例はほとんど見ることはありません。個人間で借地権を0として借地する場合は、親族間の無償使用がほとんどで、子が親の土地上に家屋を建て無償で借地を始めても、それが自然であるとされ、借地権の贈与として贈与税が課税されることはありません。
土地所有者と借地人に対立的要素がある、または対立が生じたとすれば、地代の授受に自然な面もあり、相当地代の授受ということも納得されることがあると思われます。対立的要素もなく、子に収入を得させたいということになりますと、贈与的な要素や相続税対策の面も感じられるようになります。親子間で、他人間と同様に建物の賃貸をすることもありますので、親子間で相当地代の授受をしても不自然ではないでしょうが、例がほとんどありません。実行には勇気が必要ですね。
土地の値段が上がって来て、地代が相当地代より低くなった時は、自然発生的な借地権が借地人に生じたと考えることもできます。この自然発生の借地権について、発生した時点または年分で課税する規定はありません。その後、相続税・贈与税の課税原因が生じた折に、相当地代と実際地代の差額を基に通達の算式により借地権価格を算出し、それに従って相続税・贈与税の課税をすることとされています。
法人税の通達では、法人が土地所有者である時に、相当地代を収受している間の地代の額の改定方法について届出をすることが定められています。方法は、土地価格の上昇に応じて地代の額を相当地代の額に改定する方法とそれ以外の方法の 2つです。そして、概ね 3年ごとに地代を相当地代の額に改定してきた場合には、課税時期における借地権を 0と扱い、そうでない場合には、通達により自然発生的な借地権を計算するようになっています。相続税・贈与税の関係では、そのような地代の改定についての通達上の定めはありませんが、基本的な考え方は同様と思われます。営利主体の法人格と自然人との差から、通達上の規定に差が生じていると考えられます。
なお、土地の値段が下がった場合には、相当地代を超えた金額は贈与と判定されることが考えられますが、相続税評価額を基に相当地代を計算しているとすれば、差額はある程度柔軟に考えることはできると思われます。
現実に案件が生じた折には、下記法令等をご参照なさって、扱いに正確を期して頂きますようお願いいたします。理解にそごが生じる恐れもございます。なお、当方に解決をご依頼の際には責任をもって検討させて頂きます。
2023.5.17 yxiaolin117@gmail.com 税理士 小林禧継